挑戦することをあきらめないで!~NPO法人アラジ 下里夢美さん~
今回は、シエラレオネで活動するNPO法人アラジ代表理事の下里夢美さんにインタビューをさせていただきました。
NPO法人アラジは、2014年から活動を開始し、2017年にNPO法人化、現在は現地シエラレオネで、「誰もが夢に向かって努力できる社会」をビジョンに、子どもたちへの教育支援事業や、アフリカ布を使った雑貨の制作・販売事業を行っています。
2009年にシエラレオネの戦争孤児の男の子・アラジ君をTVのドキュメンタリー番組で観てから、支援を志した下里さん。
社会貢献を仕事にする詳しい活動や現地でのエピソード、活動するうえでの価値観などについてお話しを伺いました。
下里夢美
(1991年9月1日)山梨県に生まれる
(2009年3月7日)ドキュメンタリー番組「世界がもし100人の村だったら」で、シエラレオ ネの少年アラジに出会う
(2012年3月)バングラデシュNGO・BRACにてマイクロクレジットプロジェクト視察
(2013年)特定非営利活動法人「シャプラニール=市民による海外協力の会」 インターン
(2014年3月)桜美林大学 国際協力専攻卒業
(2014年9月1日)日本ファンドレイジング協会・准認定ファンドレイザー資格取得
(2015年)特定非営利活動法人「WE21ジャパン」有給広報スタッフ
(2017年7月7日)特定非営利活動法人Alazi Dream Project 設立 代表理事就任
(2019年3月)第一子出産
(2020年3月)第二子出産
*本インタビューは2020年1月時点での取材内容となります
目次
シエラレオネで困難な立場にいる人々が夢に向かって努力することができるように
現在の活動
現在はどのような活動をされていますか。
現在は、シエラレオネの首都フリータウンを中心に、5つの事業を行っています。
保護者の経済的理由により、教育を受け続けることが困難な子どもたちに対して、家庭へ奨学金を給付する支援や、農村部では、まだ教育を受けるための初期投資や運営に対してサポートが必要な学校に、定額給付支援を行っています。
また、現地のテーラー(洋服の仕立屋さん)と一緒にアフリカの布を使って雑貨を制作・販売する事業などを行っています。
アラジのビジョンの誕生秘話
アラジのビジョンと、その想いを抱くようになったきっかけを教えてください。
NPO法人アラジは、「誰もが夢に向かって努力できる社会」をビジョンに活動しています。
このビジョンを掲げたきっかけは、大学生の時に参加した国際協力研修で訪れたバングラデシュでの経験です。
はじめて訪問したスラムの中の学校で、子どもたちに夢を聞く機会がありました。子どもたちは、「お医者さんになりたい」「パイロットになりたい」「学校の先生になりたい」と夢を語ってくれました。
その夢を聞きながら、私は「ああこの子たちの誰もが、その夢を叶えるのは難しいだろう」と思ってしまったんです。
キラキラした笑顔と対照的に、子どもたちの現実はとても厳しく、そのギャップにとてもショックを受けました。
その時に、「夢を持った人の誰もが、平等に努力することのできる社会にしたい!」と強く思いました。
それは、シエラレオネで活動していく上でも、大切なビジョンの一つです。
行政と一緒にサポートを届ける小学校でのヒアリング風景
下里さんはシエラレオネにこだわりがあって、現地でNPOを立ち上げようと考えたのですか。
そうですね、とにかく、自分の志の原点である、シエラレオネという地域の問題解決をしたかったので、自ら日本でNPOを作ろうと決意しました。
NPO法人にした理由は、活動を応援いただく皆さんから寄付を継続的に集め、運営していくのに、税制的な優遇や、社会的な信頼から、一番効率が良いと考えたからです。
NPO法人に登記したことで、得られたメリットはありますか?
それはありますね。
例えば、NPO法人に登記したことによって、やはり啓発活動をする際に信用度が増し、皆様から寄付は得られやすいですし、特に、小学校や大学などの講演会では、企業よりも、NPO法人の代表としてのほうが、ご依頼をいただきやすいと感じます。
シエラレオネにはINGOがまだまだ必要
現地での活動でこころがけていること
国際協力の活動で心がけていることはありますか。
現地で事業をする上では、契約書に事前に色々な事柄を盛り込むことを心がけています。
というのも、現地でいざ事業を進めようとしても思い通りにいかないことが多いからです。
私たち日本人の感覚で「これをやって」と言っても、結果としてこちらが驚いてしまうようなことが多々あります。
例えば、車を1日レンタルする際、「この値段で何時間で」っていう契約書を作ってサインしてもらって現場へ向かうとします。
それでも、途中でタイヤがパンクしてしまったときには、そのお金を払えと要求されることがあります。
日本ではそんなこと絶対に言われないんだけど、そこまで想定し尽くして、事前に契約書に盛り込む必要がある。
日本ではスペアタイヤくらい持ってるでしょう、保険とか入っているでしょうってなるけれど、アフリカではそうなりません。
だから、予想されるアクシデント1つ1つに前もって対処していくことを一番に心がけていますね。
NPOとしてシエラレオネで活動する意義
NPO法人としてシエラレオネで活動する意義について教えてください
政府と反政府軍(革命統一戦線=RUF)がダイヤモンド鉱山の利権を巡り10年以上も争った内戦は、2002年にようやく終結しました。
当時と比べ、危険レベルも観光客が渡航できるくらいに下がり、日常的な争いや飢餓などの心配はなく、人々は豊かに暮らしているように思われます。
ただ、恒常的な問題として、何か問題が起きた時の社会保障、いわゆるセーフティーネットは、まだまだ脆弱です。
一見豊かに暮らしているようにみえても、家族が病気にかかったときや、災害にあったときなどに、まったく社会保障がない、それに加えてその時の貯蓄もない、という、常にリスクのある中で、人々は生活しています。
日本には、国民全員に健康保険があり、失業すれば失業手当ももらえます。
けれども、シエラレオネでは何か起きたときに、社会が守ってくれない課題があり、
例えば、一番弱い立場の子どもが、自分の生活費・教育費を工面するために、路上で売り歩き労働をしてしまう、初等教育をドロップアウトしまう…。
それが本当に大きな社会問題だと感じています。
長い内戦を経験し、18歳以上の識字率が30%程度と言われているシエラレオネ。
”ビジネスで社会貢献する!”という視点もとても大切ですが、そこで恩恵を受けられるのは、現在までになんらかの支援があって「教育を享受できた人」だけです。
そういった点では、INGO=Internatioal NGOの伴走支援はまだまだなくてはならない、やりがいのある活動だと感じています。
現地の人々とのコミュニケーション
現地の人々の意見を大切に活動されていますが、下里さんの意見を通したいと思う場面はありますか。
現地の人々にとって、彼らの社会保障はどこにもないので、私たちに出会えたことはある意味、大きなチャンス。
生活の不満を訴えられえる先はそう多くはないので、あれもしてほしい、これもしてほしいと、要求されてしまうこともありました。
例えば、一番困ってしまうのは「家族が病気だから、今お金を払ってほしい」と言われてしまうこと。
意外と、プロジェクトに入り込んでいる農村部では言われることがないのですが、首都オフィスの近所の人たちに、気軽に言われることは多々あり、目の前の人の生死を左右しなければならない場面に出くわしたことは何度もあります。(個人的にお見舞金を渡すこともありますが…)
目の前の困難に手を差し伸べる支援や、現場のニーズを知ることは確かに大切なのですが、本来のプロジェクトで目指すべき目標を見失ってしまうことにも繋がります。
あらかじめプロジェクトをやる際には、私たちの事業ではここまでは担当し、いずれは行政に引き継ぐ形で撤退するので、これ以上の支援は他の支援機関と組み合わせて生活を立て直すように、というのを書面できちんと説明するようにしています。
自分のやりたいことに正直に
アラジの今後の活動
これからはどのような活動をお考えですか。
2021年は、都市部において大人の識字教育や、農村部において大人のビジネススキルアップ・小規模助成金付与などを考えていましたが、COVID-19の影響で、事業開始が難しくなっています。
そこで、2021年は、さらに子どもの教育に焦点をあて、保護者の経済状況によって教育を開始・完了することが困難な、児童労働に従事している子どもに対して、都市部・農村部ともに、支援の手を広げていく予定です。
現在、教育からこぼれ落ちてしまう子どもと家庭への教育支援を行っていますが、子どもの貧困の根本原因は、まずは大人たちが内戦の影響で、きちんと教育を受けられなかったことに起因しています。
シエラレオネの初等教育は、小学校6年制・中学校3年制・高校3年生と考えられていますが、2020年のデータによると高校に進学し卒業できる生徒の割合は、43.5%(GoSL)と、以前として低い数字が課題となっています。
また、小学校1年生でも留年があり、家庭で基礎的なアルファベットの読み方を習うことができない子どもたちが、小学校低学年を留年し続け、低学年クラスを過密化させてしまうことも問題です。
2018年には初等教育無償化となりましたが、自分の通学バックの購入費や給食代を捻出するために、児童労働をせざるを得ない子どもや、若年妊娠や、就職難により高等教育に意味を見出せない中・高校生の退学…など教育への問題は様々です。
2019年は210名、2020年は、298名の子どもと家庭にサポートを届け、現在約300名の子どもがアラジのサポートにより通学しています。
今後の国際協力の潮流
今後の国際協力の新しい流れに関してお考えはありますか。
今後の国際協力は、E-learningや、コンピュータを使った、ICTの技術などとコラボしていくのが主流になっていくと考えています。
例えば、シエラレオネでも、スマホで胎児を確認できる格安エコー技術や、ドローンで輸血を運ぶなど、妊産婦死亡率・死産率を減らす等の取り組みや、アフリカの他の地域では、ドローンで鉱山の違法採掘や性犯罪をみつけるなど、さまざまなIT技術が、国際協力の分野でどんどんコラボレーションを起こしています。
一方、ICTを教育ツールにするのはまだまだ簡単ではないと思われます。
ベースとなる、膨大な読書き反復練習や、基礎教育を受けた上で論理的に思考できないと、パソコンなどのICTツールは使いこなせないので、小学生にいきなりパソコンを配っても成果は得られないんですよね。
村に学校もなく教材も足りていないところや電気の供給も不足している地域には、まだまだアナログな支援が必要ではないかと考えます。
国際協力の在り方がどんどんと変わっていく中で、様々な支援のオーバーラップによって格差が広がることのないように、本当に取り残された人たちの支援を忘れてはいけないと考えてます。
読者へのメッセージ
将来国際協力を志す人にメッセージをお願いします。
自分がやりたいことに正直になるのが大切ではないでしょうか。
学生さんから、就職するか、せっかく志してきた国際協力の道に進むか、相談されることが多いのですが、そこには、親や周囲の反対、金銭的・精神的にも、自己犠牲になってしまうのではないか…どの諸々の心配があるように思われます。
「とにかくシエラレオネで何かやりたいんだ!」という意思だけで、大学卒業後も就職は考えず、飲食店でバイトをしながら100万円以上の借金をして、日本大使館のないシエラレオネに一人で挑戦するという道を選びましたが…。
今思えば、一人暮らしの家賃も払えるかどうか分からないような状態なのに、自分ではそれが苦しい状態だとは、まったく気づかなかったんですよね。
とにかく夢中でやれることだったので。恵まれていたことに、ピンチの時には、周りからの金銭的援助も、応援もありました。
だから、本当にこだわりがある人って自分への心配よりも、どうしてもやりたいっていう気持ちが結局は勝つんだと思います。
日本に住んでいればやりたいことを突き進められる環境にあると思っています。
借金してもそこで死ぬわけじゃないし、なんにでも挑戦できるので、挑戦することを選ぶのも、就職するのも、自分の気持ち次第だなと思います。
ただ、私のように、本当に思い入れのある国があったとしても、基本的には、はじめから起業を目指さずに、就職するか、インターンや海外協力隊などで海外経験を積み、まずは国際協力分野で修士号を取得する道を目指されたほうが、現実的な手段ですし、後々のキャリア形成には役立つかとは思います。
国際協力への道は意外にもたくさんあるので、専門分野を磨かれたほうが、現場で役立つ人材になれるのではないでしょうか。
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